WOLFRAM NOTEBOOK

International Essays

Wolfram

伊藤 利明 氏
同志社大学 生命医科学部・医工学科 教授
同志社大学では,初学年向け高大連携(リメディアル)教育でWolfram|Alpha ProWolfram|Alpha Notebook Edition を活用した数学のコースを設け,大学で学ぶ数学の基礎を教えています.これらの授業で使用する教材テキスト「基礎数学をWolfram|Alpha Proで- どこにも数学 - (Notebook Edition対応)」はオープンコースウエアとして公開しています.
これは,Wolfram Research販売代理店株式会社HulinksMathematica導入事例のインタビュー記事を弊社が再編集したものです.

高大連携(リメディアル)教育でWolfram|Alpha Notebook Editionを活用

大学で学ぶ数学の基礎は,大学受験で高得点を取るために多くの技術を必要とする特殊な受験数学とはかなり違います.そのため,大学で初めて習う基礎数学の雰囲気に戸惑う学生が多くいます.そこで,数学基礎科目,微分積分学,代数学,応用数学などの大学初学年向け高大連携(リメディアル)教育の科目では, Wolfram|Alpha および Wolfram|Alpha Notebook Editionを教育に活用しています.
例えば,「行列」は大学に入って初めて学ぶ学生も多いため,Wolfram|Alphaで行列を用いた座標変換を可視化する例を紹介しています.「回転行列」とクエリに入れると,以下のように実際に回転させた画像を見ることもできます.
図1: Wolfram|Alpha に「回転行列」と質問した時の出力画面
また,関数や数列をグラフ化すると容易に極限の予想ができます.その予想のもとで等式や不等式の変形をするというスタイルの勉強も有益です.以下の例は,学部1年向け微分積分の講義の内容から, Wolfram|Alpha Notebook Editionで原点に極限がない関数を表示させたものです.
x*y/(x^2+y^2)
related computations
full Wolfram|Alpha results
In[]:=
Plot3D[x*(y/(x^2+y^2)),{x,-0.55,0.55},{y,-0.55,0.55}]
Out[]=
上の画面で,「完全なWolfram|Alphaの結果」をクリックすると,以下のような結果が表示されます.
x*y/(x^2+y^2)
x×
y
2
x
+
2
y
3D
x
min
x
max
y
min
y
max
計算の過程を詳しく見せてくれるWolfram|Alpha Pro の機能「ステップごとの解説」もたいへん便利です.例えば,Wolfram|Alpha Notebook Editionで微分方程式を解いてみると,答えだけでなく,ステップごとの解説で計算の手順も確認することができます.
上の出力画面の「次のステップを表示」をクリックすると,一つずつステップごとの解き方をみることができますし,「全てのステップを表示」をクリックすると,最終結果が出るまでの全てのステップを一度に表示します.(ボタンをクリックしてみてください)
答えがわかってしまうと学生の勉強にならないのでは,という指摘も考えられます.しかし,数学や,計算を中心とする物理学の学習の質を損なわないと考えています.学生はWolfram|Alphaで得た答えを丸写しするのではなく,それを自分で解釈したり,足りない部分は自分で補ったりしながら数学の内容に触れていきます.「答えを知る・覚える」のとは根本的に異なる学習です.

Wolfram|Alpha Notebook Editionが自力で解くための手助けとなる

これらの授業のテキストとして作成した「基礎数学をWolfram|Alpha Proで- どこにも数学 - (Notebook Edition対応)」は,大学でのオープンコースウエアとしてWebで公開しています.高校から大学初年度程度を対象とした数学の内容になっており,Wolfram|Alphaの使い方から,データサイエンス,身の回りにある数学に関する話題提供まで,文系・理系を問わず教養のための数学入門書,あるいは自習教材となるよう工夫しました.(図2左)
図2: (左)テキスト「基礎数学をWolfram|Alpha Proで ーどこにも数学ー」の目次
  (右)WEBから学生が自由に閲覧できる学習支援システムにWolfram|Alpha Notebook Editionの対応サンプルなどを掲載
リメディアル教育のひとつである数学基礎科目では,高校数学の基礎知識の確認と,大学初年度の微積分や線形代数などに必要となる知識と計算力を身につけることを目標としています.学生には副教材として Wolfram|Alpha Notebook Edition(学生版)を勧めており,今年度は受講生の半数以上となる約70名が大学生協を通じて購入しました.学内の学習支援システムには,教材テキストとしてWolfram|Alpha Notebook Editionの対応サンプルも掲載しています.(図2右)
この授業では,各回のトピックに関する身の回りの現象などいくつかの話題を数学科目の教職を目指す学生と共同で作成し,毎回授業の最初に配布しています(図3左).その資料を読んだ後,学生は演習問題を自力で解いていきます(図3右).授業中は何を見てもOKですが,解答は必ず全て自分でノートに書き,それを教員にチェックしてもらって終了,というルールです.教員に質問したり,ネットで調べたり,Wolfram|AlphaやWolfram|Alpha Notebook Editionで自分でグラフを描いてみたりしてもよいのですが,多くの学生は黙々と自力で解けるまで頑張って取り組んでいます.悩んだり迷ったりしたときには,学生同士で教え合っている様子も見られます.
図3:(左)第5回「三角関数」の授業で事前に配布した資料.天文学やノイズキャンセリングなど三角関数に関係している話題を提供している.
   (右)演習で解く問題のリスト.
写真:基礎数学の演習風景.学生は黙々と問題に取り組み,教室は静まり返っている.

Mathematicaは研究活動における統合的な数学支援環境

今から30年ほど前に,スティーブ・ジョブスがAppleを出てNeXTというワークステーション(WS)を売り出し,そのWSにMathematicaがバンドルされていました.その当時,日本では数式処理に関する研究が始まっており,Wolfram Research社の方々とMathematicaの啓蒙活動を行ったのがきっかけで,Mathematicaを使い始めました.
主な研究は,脳の神経系ネットワークのような巨大ネットワーク系の数理的解明,脳波によるドローン飛行制御などの脳波分析です.また,最新の知的活動支援環境を用いた新たな教育法開発にも興味があり,これらの研究にMathematicaとWolfram|Alphaは有効です.
特にMathematicaは,卒業研究生や大学院生とともに研究用に利用しています.主な研究対象である数学モデルにおける連続系と離散系の融合理論開発(例:微分方程式数学モデルの自動離散数学モデル化・連続系理論の離散系理論への自動翻訳)において,Mathematica は統合的な数学支援環境として非常に有効です.(図4)
図4:脳機能ネットワーク解析にMathematicaを活用.神経系ネットワークから数学モデルを構成したり,接続行列の可視化も行っている.

Wolfram|Alphaで「実験数学」を

Wolfram|Alphaで答えに至らなくても,いい意味でのヒントになります.別のクエリを試したり,最適なクエリを考えるのもまた学習だと考えています.関数や変数を変更する「実験数学」のような使い方にも価値があると考えています.Wolfram|Alpha Notebook Editionや,Wolfram|AlphaのiOS版で実装されたカメラによる数式入力(図5)の有効な活用も検討しています.大学数学の入門的な使い方に留まらない,それ以上の可能性をWolfram|Alphaに感じています.
今後の展望としては全学対象の活用講座(検算,理論の検証,視覚化)や,基礎数学系の講義・演習での有効利用等があげられます.これを構成論的手法,ひらたく言えば「システムを作って動かすことで理解してみよう」というような手法でできればと思っています.
Wolfram|Alphaの自然言語での日本語入力は,初めて使う人にはまだまだ不自由さがあるようです.これは利用者の質問文に個性があり,日本語の表現があまりにも柔軟なことも背景にはあると思われます.今後一層,日本人になじむ知的活動支援環境になることを願っています.
図5:Wolfram|Alpha iOSアプリでは,写真入力や「ステップごとの解説」が利用できる(Proの機能
このページでご紹介した内容に関連する情報へのリンクです.
WOLFRAMオープンセミナー2020 DOSHISHA (2020年3月28日):
https://www.wolfram.com/events/wolfram-openseminar-doshisha-2020/
ラーニング・コモンズでの学習支援にWolfram|Alphaを活用(同志社大学 澤宏司氏):
https://www.wolframcloud.com/obj/international-essays/Published/learning-commons-doshisha-university-ja.nb
※所属・役職はインタビュー時のものです.(2023 年6 月)
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